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最高裁判所第二小法廷 昭和41年(あ)2062号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人岡本治太郎の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。もっとも、所論にかんがみ職権をもって調査すると、第一審判決は、「被告人都竹達男同大附健司は、昭和三十八年十一月二十一日施行の衆議院議員選挙に際し、岐阜県第二区から立候補した前田義雄の選挙運動者であり、いずれも萩原町議会議員として、今井包子の夫今井竹治が校長として奉職する町立尾崎小学校の改築の審議並にその施行に種々尽力し来った者であるが、今後予想される同校給食室等附属建物の改築の予算審議にも当然関与すべき特殊の利害関係があるところから、同年同月十九日午後三時過頃岐阜県益田郡萩原町旅館大坪屋から先ず被告人大附が候補者金子一平の選挙運動者である右今井包子方に電話し、「貴女が金子派の自動車に乗っていたという人があるが本当か」と訊した上、右特殊の利害関係を利用して、「給食室も造らねばならんし、校長先生まで誤解されるから、よく考えて行動して貰わねばならぬ」と申し向け、途中大附と交替した都竹も亦右特殊の利害関係を利用して「校長先生はあまり旗色をはっきりしないように。若し旗色をはっきりするなら、前田派に来い」と申し向け、同女をして、同女の支持者に対する選挙運動に不安を抱かせるに足ることを申し向け、以って共同して同女を威迫したものである。」との事実を判示し、右は公職選挙法二二五条三号刑法六〇条に該当するとして同法条を適用したところ、原審判決は、第一審判決には、公職選挙法二二五条三号所定の「特殊の利害関係を利用した」との点を充足する事実の判示がなく、したがって、第一審判決が前記判示事実に対し同条号を適用したのは法令の解釈適用を誤ったものであるが、右判示事実は同条一号所定の「選挙運動者に対し威力を加えたとき」にあたるとして、第一審判決を破棄し、右判示事実に公職選挙法二二五条一号、刑法六〇条を適用して自判したことが明らかである。

ところで、右判示事実によれば、被告人らは萩原町議会議員として、今井包子の夫今井竹治が校長である町立尾崎小学校の給食室設置などの予算審議を通じ、あるいはその政治的権勢によって、同小学校の改築を妨げ、ひいては右竹治の校長としての地位に圧力を加えうる立場にあるのであり、被告人らの言動は右包子に不安の念を抱かせてその選挙運動の自由を妨害するに足りるものであることが明らかであるから、右判示事実は、公職選挙法二二五条三号所定の「特殊の利害関係を利用した」との点にあたる事実の判示として十分であって、これを否定した原判断は正当でない。

また、公職選挙法二二五条一号の「威力」とは「人の意思を制圧するに足りる勢力」、同三号の「威迫」とは「人に不安の念を抱かせるに足りる行為」をいい、両者の相違は、人の意思を制圧するに足りる程度の行為であるかどうかにあるものと解すべきところ、被告人らの前記判示行為の程度では、いまだ相手方の意思を制圧するに足りるほどのものとは認められないから、該行為は前法条三号の「威迫」にあたるものと解すべきであり、これを同一号の「威力」にあたるとした原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があるものといわなければならない。しかし、右一号と三号とは法定刑が同一であるから、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認めがたい。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

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